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地震や豪雨などの自然災害が頻発する日本では、企業にも従業員の安全確保と事業の継続を両立させる防災体制が求められています。被害を最小限に抑える「平時の備え」は、BCP(事業継続計画)と並び欠かせない経営課題です。
本記事では、企業が取り組むべき防災対策の考え方や実践のポイントを整理し、災害時に強い組織づくりのヒントを探ります。
企業が防災に取り組むべき理由

災害が多発する日本において、企業防災は社会的責任であり、経営を守るリスク対策でもあります。まずは、企業が防災に取り組むべき背景と意義を整理してみましょう。
法的義務と企業の責任
企業には、従業員の安全を守る法的義務があります。労働契約法第5条では、次のように定められています。
「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」
参照:「労働契約法のあらまし」(厚生労働省)
この安全配慮義務には、災害対策も含まれます。
また、自然災害が絶えない日本では、被害は地域社会全体に影響を及ぼします。企業には地域社会を支える存在として、災害時に従業員の安全を確保し、事業を速やかに再開する責任があります。
平時から地域と連携し、備えを共有することも必要です。CSR(企業の社会的責任)やESG(環境・社会・企業統治への配慮)の観点からも、人命と事業を守る姿勢が問われています。
CSRやESGについては、以下のページもご参照ください。
➤企業の社会貢献はなぜ必要なのか? ESG・CSR・SDGsの違いと経営に効く理由
防災への取り組みは、信頼される企業の基盤を築き、持続的な経営を支える要となります。
災害が企業にもたらす多面的なリスク

災害による影響は、目に見える被害だけにとどまりません。一度被災すれば、企業活動のあらゆる側面に波及し、経営の継続を脅かします。
たとえば、次のようなリスクが想定されます。
・建物・設備の損壊や生産ラインの停止
・サプライチェーンの寸断による供給の滞り
・従業員の安否不明や通勤困難による業務の停止
・情報システムの障害やデータ消失による業務混乱
・対応の遅れや情報発信不足による社会的信用の低下
こうしたリスクは一つ発生すると連鎖的に広がり、企業全体の信頼を大きく損なう恐れがあります。人命を守ることを最優先としつつ、防災を「事業と信頼を守る経営課題」として位置付け、全社的に取り組む姿勢が求められます。
「企業防災」と「BCP」の違い・関係性

災害対策として「防災」と「BCP」をよく耳にしますが、両者は目的や対象が異なります。それぞれの特性を理解し、組み合わせることで、より強固な災害対応体制を構築できます。
防災とBCPの目的・対象範囲の違い
防災とBCPは、災害対策の異なる側面を担っています。
防災は、「人命と設備の保護」を目的とした取り組みです。施設の耐震化や備蓄品の確保、避難訓練など、災害による被害を未然に防ぎ、最小限に抑えることに重点を置きます。
一方、BCPは「事業継続」を目的とした計画です。災害発生後に中核事業をいかに継続・早期復旧させるかに焦点を当て、代替手段の準備や復旧手順の明確化を図ります。
つまり、防災は「被害を出さない・減らす」ための平時の備えであり、BCPは「被害が出ても事業を止めない」ための計画といえます。
両者を組み合わせた総合的な災害対策
防災とBCPは、どちらか一方だけでは不十分です。防災によって被害を抑えても、事業復旧の手順が整っていなければ再開は遅れます。反対に、BCPがあっても基本的な防災対策が欠けていれば、計画の実行自体が困難になります。
防災の成熟度は、BCPの実効性に大きく影響します。日頃から従業員の安全確保や設備保全に取り組む企業ほど、災害時の混乱を抑え、BCPをスムーズに発動できるからです。両者を一体的に捉え、防災で土台を固め、BCPで事業継続性を確保する体制が大切です。
なお、BCPについては以下の記事で詳しく解説しているので、併せてご参照ください。
企業防災の具体的な取り組み内容

企業防災は、施設面・備蓄面・運用面など多岐にわたります。ここでは、実際に取り組むべき対策を6つの視点から整理します。優先順位をつけて段階的に進めることが大切です。
参考:「企業の防災対策・事業継続強化に向けて~切迫する大規模地震を乗り越えるために~」(内閣府)
施設・設備の耐震化と安全対策
災害時の被害を最小限に抑えるには、建物や設備そのものの安全性を高めることが第一歩です。
まず、建物の耐震性を確認します。特に昭和56年以前に建築された旧耐震基準の建物は、専門家による耐震診断を受け、必要に応じて補強や改修工事を行うことが求められます。耐震性への不安が大きい場合は、建て替えの検討も選択肢の一つです。
また、オフィス内や工場内では、棚・ロッカー・機器類を金具や耐震マットで固定し、地震発生時の転倒や落下による負傷リスクを軽減します。特に高い位置にある書類や機器、重量のある備品は、固定を徹底することが重要です。窓ガラスには飛散防止フィルムを貼るなど、二次被害を防ぐ対策も有効です。
備蓄品の確保と防災設備の整備

災害発生直後は物流が寸断され、必要な物資の調達が困難になるため、企業内で一定期間を自力で乗り切る備蓄が必要です。
東京都帰宅困難者対策条例では、企業に対して「従業者の三日分の食糧等の備蓄」が努力義務として定められています。最低限必要な備蓄品としては、以下が挙げられます。
【生活必需品】
・水・食料(従業員数×3日分)
・災害用トイレ・救急用品・毛布
【設備・機器】
・発電機
・蓄電池
・衛星電話(電源・通信手段確保)
特に都心部のオフィスでは帰宅困難者の発生も想定し、余裕を持った備蓄が求められます。備蓄品は定期的に消費期限を確認し、更新することが必要です。
避難計画の策定と避難経路の確保
災害発生時に迅速かつ安全に避難するためには、事前の計画と周知が不可欠です。
社内や工場内の避難経路を明示し、非常口の位置や避難場所を全従業員が把握できるようにします。フロアマップの掲示や定期的な確認を通じて、いざという時に迷わず行動できる環境を整えることが重要です。経路上に障害物を置かないといった日常管理も欠かせません。
また、障害者や高齢の従業員への個別避難計画を作成し、誰がサポートするかを明確にしておくことで、全員が安全に避難できる体制を整えます。
従業員の防災意識を高める教育と訓練
防災対策の実効性を高めるには、従業員一人一人の意識向上と行動力の養成が欠かせません。
定期的な防災訓練では、避難経路の確認に加え、初期消火、応急手当など、実際の災害を想定した演習を行います。訓練を繰り返すことで、緊急時に冷静に行動する力が身につきます。
また、新入社員研修に防災教育を組み込むなど、全従業員が共通認識を持てる仕組みづくりも有効です。
ICTを活用した防災管理
デジタル技術を活用することで、災害時の情報共有や意思決定を迅速化できます。主なICT(情報通信技術)ツールとしては、以下が挙げられます。
・クラウド型の連絡網・安否確認システム
・デジタル防災マップ(避難場所・避難経路などの共有)
・業務に関連するクラウドサービスの活用(在宅勤務などへの切り替え)
これらのツールは、従業員の状況を即座に把握し、次の行動を素早く判断するのに役立ちます。特に拠点が複数ある企業では、全社的な状況の可視化が必要です。
こうしたICTツールは平時の業務効率化にも寄与するため、費用対効果も高いといえます。
地域防災活動への貢献
企業には、自社の災害対策にとどまらず、地域社会の一員としての役割を果たすことも期待されます。
内閣府の防災基本計画では、企業防災の役割として「従業員、顧客の安全確保」「事業活動の維持と社会経済の安定」とともに「地域防災活動への貢献」を掲げています。この中では、企業が持つ人材・土地建物・資材などの資源を活かし、業種・業態といった特性に応じて、次のような取り組みを求めています。
・災害時の物資支援
・行政、住民、ボランティアとの連携体制の構築
・防災をテーマとした地域住民との平常時からの交流
連携や交流の具体例としては、災害時協定の締結による支援体制の整備、合同防災訓練の実施、防災イベントや地域勉強会への参加・協賛などが挙げられます。
こうした地域との関わりは、企業の社会的信頼を高め、地域が互いに支え合える体制づくりにも寄与します。
参考:企業防災の役割(内閣府)
実践的な防災教育と訓練の進め方

企業防災を機能させるには、設備や備蓄とともに「人」の備えが欠かせません。従業員が災害時に冷静かつ的確に行動できるよう、教育と訓練を通じて実践力を高めることが重要です。
定期的な防災訓練の実施方法
防災訓練は、従業員が実際に行動できる力を身につけるための基本です。
消防法に基づき、大規模建築物などでは年1回以上の防災訓練の実施が義務付けられています。訓練内容としては、通報、避難、初期消火、応急手当、安否確認などがあり、これらを組み合わせて行うことで、災害時の総合的な対応力を高められます。
本社・工場・営業所など拠点ごとに訓練内容を調整すれば、より実践的な対応力を育成できます。
また、災害の種類や発生時間帯を変えて実施することで、「想定外」にも対応できる柔軟性が養われます。訓練後には必ず振り返りを行い、課題や改善点を共有して次回に活かすことが重要です。
専門家による企業向け研修プログラムの活用
自社のみで効果的な防災教育を行うには、ノウハウや人材の面で限界があります。そこで、災害対応の実務経験を持つ専門家による研修を取り入れる方法があります。認定NPO法人ピースウィンズ・ジャパンが運営する「空飛ぶ捜索医療団“ARROWS”」では、企業向けの研修プログラムを提供しています。災害時の応急手当や避難誘導、緊急時の判断といった実務スキルを、座学と実技を組み合わせて習得できます。

こうした外部プログラムを活用することで、従業員の防災意識と行動力を効果的に高め、企業全体の災害対応力を底上げできます。
家族を含めた防災意識の醸成
災害時に従業員が安心して行動するには、家庭との連携も欠かせません。家族の安全が確保されていなければ、従業員は冷静な判断が難しくなります。
企業として、従業員の家族にも防災意識を広げるため、家庭向けの啓発資料の配布や情報発信を行うことも有効です。また、従業員に対し、家族との連絡手段や集合場所を事前に確認しておくよう促すことも大切です。家族の安全が確認できることで、従業員も落ち着いて業務に対応できます。
こうした取り組みは、企業防災の実効性を高めるとともに、従業員の安心感やモチベーション向上にもつながります。
企業防災の先進事例に学ぶ

企業防災の取り組みは、企業規模や経営資源によって現実的なアプローチが異なります。ここでは、中小企業と大企業それぞれの実践例を紹介し、自社に合った体制づくりのヒントを探ります。
【中小企業】限られたリソースで実現する防災体制
先進的な中小企業では、限られた人員と予算の中でも、経営トップの意思と従業員の一体感を活かした実効性の高い防災対策が進められています。
宮城県の食品加工業者(従業員約200名)は、東日本大震災の経験を基に次のような取り組みを実施しています。
- ・「人命第一」を明確化し、全従業員が参加する実践型訓練を継続
- ・初動対応や原料確保まで含めた多様なシナリオ訓練を実施
- ・改善提案を促す仕組みづくりにより、防災を通じた人材育成を推進
また、熊本県の電気設備工事業者(約130名)は、熊本地震後に安否確認システムや非常用電源を整備し、復旧拠点として機能する体制を構築しました。
こうした取り組みは、地域や取引先からの信頼を高め、企業価値の向上にも寄与しています。
【大企業】拠点間連携による全社的な防災体制
複数拠点を持つ大企業では、全社統一の防災基準と各拠点の自主的な対応を両立させる仕組みづくりが進んでいます。都心部の大企業を中心に共通して見られる主な取り組みは、次のとおりです。
・従業員3日分の備蓄確保や帰宅困難者対策の整備
・安否確認システムの導入による全社員の状況把握
・全社的な防災訓練の実施と拠点間の連携確認
さらに、代替拠点の指定や情報システムのバックアップ体制の整備により、事業継続力を強化している企業もあります。
これらの取り組みは、防災力を高めるとともに、社会的責任の実践にもつながります。
まとめ
企業防災への取り組みは、従業員の命を守り、事業を継続できる経営基盤の構築に直結します。施設の安全対策や備蓄、避難計画、教育・訓練を段階的に進めることで、災害に強い組織を築けます。
日頃からの備えと訓練の積み重ねこそが、有事の際の冷静な対応を可能にするでしょう。
ピースウィンズ・ジャパンは、企業向け研修プログラムの提供のほか、国内外の災害支援活動や企業とのパートナーシップを通じて社会課題の解決を目指しています。寄付や協働プロジェクトなど、さまざまな形での企業連携については、以下のページをご覧ください。





