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2026年1月19日
コラム
災害に備えるBCP策定とは?企業が取るべき実践的対策
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BCP(事業継続計画)は、災害や事故などの緊急事態においても、重要な業務を止めずに再開へとつなげるための仕組みです。

顧客や取引先からの信頼を守り、従業員の雇用を維持することは、企業の社会的責任であると同時に経営戦略でもあります。しかし、計画を策定するだけでは十分とはいえません。

本記事では、災害時に焦点を当て、BCPの策定から訓練・運用まで、企業が実践すべき具体的なステップを紹介します。

BCP(事業継続計画)とは

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BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)とは、災害や事故、システム障害などの緊急事態に直面した際の計画です。企業が中核事業を維持し、早期に復旧へと導くための方針と手順を定めます。

事前に体制や優先順位を明確にし、被害の拡大を防ぎながら事業を再開できるようにする「仕組み」として、企業での導入が求められています。

ここでは、BCPの目的や基本的な考え方、防災計画との違いを整理します。

BCPの目的と基本的な考え方

BCPの最大の目的は、緊急事態においても企業の中核事業を継続させることです。

災害や事故が発生すると、設備の損壊、従業員の被災、サプライチェーンの寸断などで事業活動が停止するリスクが生じます。このような状況下でも、重要な業務を維持し、可能な限り早期に通常体制へ復旧させることが、BCPの基本的な考え方です。

内閣府はガイドラインの中で、BCPを次のように説明しています。

「大地震等の自然災害、感染症のまん延、テロ等の事件、大事故、サプライチェーン(供給網)の途絶、突発的な経営環境の変化など不測の事態が発生しても、重要な事業を中断させない、または中断しても可能な限り短い期間で復旧させるための方針、体制、手順等を示した計画のこと」

参照:「事業継続ガイドライン――あらゆる危機的事象を乗り越えるための戦略と対応――」(内閣府)

BCPは単なるリスク管理にとどまらず、顧客や取引先との信頼を守り、従業員の雇用を維持するための仕組みです。経営戦略の一環として位置付けることが重要です。

策定にあたっては、すべての業務を同時に守ることは現実的ではありません。優先順位をつけ、中核事業に集中することで、混乱の中でも迅速な判断と行動が可能になります。

防災計画との違い

企業の危機管理において、防災計画とBCPはしばしば混同されますが、目的と役割は異なります。

防災計画は、人命と資産を守ることを主な目的とし、避難経路の確保、備蓄、安否確認など、被害を最小化するための対策が中心です。

一方、BCPは被害発生後に事業を継続・復旧させることを目的とします。たとえば、代替拠点での業務継続、重要データのバックアップ、取引先への供給責任を果たすための在庫確保など、事業を止めないための計画です。

防災計画が「人と資産を守る」ことを目的とするのに対し、BCPは「事業と信頼を守る」計画といえるでしょう。両者は相互に補完し合い、段階的に備えることで実効性のある危機対応力が生まれます。

対象となるリスクと想定範囲

BCPが対象とする、日本企業にとって想定すべきリスクには、以下のようなものがあります。

  • 自然災害:地震、津波、台風、豪雨による事業停止
  • 事故:火災、爆発など、直接的に事業活動を停止させる要因
  • システム障害:サイバー攻撃によるシステムダウン
  • 感染症:従業員の出勤困難による業務停止
  • サプライチェーン寸断:取引先の被災による部品供給停止

自社が直接被災するなどの場合以外でも、これらの要因により事業継続が困難になる事態を想定する必要があります。

BCPでは、こうしたあらゆる種類の緊急事態を想定する「オールハザード・アプローチ」が推奨されます。特定のリスクだけに焦点を当てるのではなく、さまざまな事態に柔軟に対応できる体制を整えることが、実効性の高いBCPにつながります。

災害時にBCPが求められる背景

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なかでも災害への備えは、企業にとって必須の経営課題となっています。ここでは、災害時にBCPが企業に求められる背景を3つの視点から整理します。

激甚化する災害リスクと日本特有の地理的脆弱性

日本は世界有数の災害多発国であり、地震や台風、豪雨など多様な自然リスクを抱えています。

近年は気候変動の影響で想定を超える豪雨災害が相次ぎ、2018年の西日本豪雨、2019年の台風19号、2020年の熊本豪雨など、毎年のように甚大な被害をもたらしました。気象庁の分析では、1時間80mm以上や3時間150mm以上の強い雨の発生頻度が、1980年頃と比べ約2倍に増加しています。これは傘が全く役に立たないレベルの猛烈な雨です。

さらに、南海トラフ地震や首都直下地震も、今後30年以内に高確率で発生する見通しです。

災害リスクは、もはや「起こり得る事態」ではなく、「必ず直面する経営課題」として平時から備えることが求められます。

参考:大雨や猛暑日など(極端現象)のこれまでの変化(気象庁)

災害が企業経営に与える具体的な影響

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災害の影響は、施設の損壊にとどまりません。

サプライチェーンの寸断は特に深刻です。東日本大震災では、部品工場の操業停止が全国や海外の生産にも波及しました。分業化・外注化が進む現代では、一つの取引先の被災が事業全体を止めるリスクを伴います。

また、従業員の被災による人材の喪失や、復旧業務との両立による業務停滞も大きな課題です。事業停止が長引けば顧客や取引先の信頼を失い、取引再開が困難になる場合もあります。

災害後に廃業へ追い込まれるケースも少なくなく、BCPの有無が事業存続の分かれ道となります。

社会的要請の高まり

BCPへの取り組みは、今や社会的要請となっています。

自社の供給網を守るため、取引先のBCP策定状況を確認するケースが増えています。特に自動車・電機産業では、1社の供給停止が生産全体に影響するため、取引継続の条件として明示的に求められることもあります。

また、投資家はESG評価の観点から企業のリスク対応力を重視しており、BCP未策定はマイナス要因につながります。さらに、災害対策基本法でも企業の事業継続努力が責務として位置付けられています。

BCPは信頼と競争力を同時に高める攻めの経営戦略といえるでしょう。

なお、ESG経営については、以下のページで詳しく解説しています。

ESG経営とは?投資家評価と企業価値を高める実践ガイド

BCP策定の5ステップ

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BCPで重要なのは、緊急時に現場が実際に動けることです。

ここでは、中核事業を軸にリスク評価・体制整備・従業員教育を段階的に進める5つのステップを紹介します。

ステップ1:ビジネスインパクト分析による中核事業の特定

まずは、自社にとって「止めてはいけない事業」を特定します。すべての業務を同水準で守るのは現実的ではありません。

BIA(Business Impact Analysis:ビジネスインパクト分析)では、各業務が停止した場合の影響度を評価し、優先的に復旧すべき中核事業を明確にします。たとえば、顧客への出荷、基幹システムの稼働、重要データの保全など、事業の要となる機能を洗い出し、RTO(Recovery Time Objective:目標復旧時間)を設定します。RTOとは「この業務は24時間以内に復旧させる」といった具体的な目標時間のことです。

これが、BCP全体の軸となる重要なステップです。

ステップ2:災害リスクの洗い出しと可視化

次に、企業を取り巻くリスクを洗い出し、影響の大きさと発生する可能性を評価します。

地震や水害といった自然災害に加え、停電、システム障害、サプライチェーンの寸断など、自社に特有のリスクを把握することが重要です。ハザードマップや取引先の拠点分布などを基に、被害範囲や復旧時間を想定します。

リスクを「見える化」することで、経営判断と対策の優先順位付けが容易になります。

ステップ3:事業継続のための具体的対応策の策定

リスクの洗い出し後、事業を継続するための対策を策定します。

【被害状況の把握と初動体制】
・被害状況を迅速に把握する仕組みの確立

【代替手段と事前準備】
・代替拠点の確保
・サプライヤーの多重化
・バックアップシステムの構築
・重要データのクラウド化
・必要物資の備蓄

対応策を平時の設備投資や業務プロセスに反映させることで、実効性が生まれます。

ステップ4:緊急時の組織体制と役割分担の明確化

災害時は、通常の組織体制では意思決定が滞りがちです。迅速な判断を可能にするため、災害対策本部の設置や代行権限の明確化が欠かせません。

指揮系統や役割分担、情報共有ルートを事前に定めておくことで混乱を防げます。

また、在宅勤務体制やリモート連絡手段など、緊急時の指揮を支えるインフラ整備も重要です。

ステップ5:従業員の安全確保と安否確認体制の整備

災害発生時に最優先すべきは、従業員とその家族の安全確保です。

「人命最優先」の行動基準を実現するため、以下の体制整備が必要です。

・安否確認システムの導入
・緊急連絡網の整備
・避難経路・避難場所の明示と周知
・定期的な避難訓練の実施
・従業員が自ら判断し行動できるための教育

安全を守る仕組みがあってこそ、企業は真に事業を継続できます。

BCPを機能させる運用と改善のポイント

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BCPを実際に機能させるには、日頃の訓練や意識付け、継続的な見直しが不可欠です。ここでは、「形」から「動く仕組み」に変えるための4つのポイントを紹介します。

BCPの実効性を検証する訓練・演習

計画内容が現場で実際に機能するか確かめるには、定期的な訓練や演習が欠かせません。

机上訓練やシミュレーション訓練に加え、実際の避難や安否確認、通信手段の確認を行う実働訓練も重要です。役職や部署を横断して実施することで、指揮系統や連携上の課題を把握できます。

訓練で得られた課題を改善し、計画を更新することで、実効性の高いBCPが実現します。

従業員の行動力を高める防災教育

災害対応の主役は現場の従業員です。いざという時に自ら判断して行動できるよう、日常的な防災教育が必要です。

防災マニュアルの共有や安否確認訓練だけでなく、応急処置や避難誘導など、実践的な内容を取り入れることが効果的です。

一人一人が会社を支える一員との意識を持つことで、組織全体の対応力が高まります。

専門家による実践研修の活用

防災教育は重要ですが、自社だけで体系的に行うのは容易ではありません。そこで、災害現場を経験した専門家による研修を取り入れることも有効です。

たとえば、認定NPO法人ピースウィンズ・ジャパンが運営する「空飛ぶ捜索医療団“ARROWS”」は、企業向け研修プログラムを提供しています。災害医療の基礎から緊急時の行動まで、現場経験に基づく実践的な内容が特徴です。

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PDCAサイクルによる継続的改善

BCPは一度策定したら終わりではなく、PDCAサイクル(計画・実行・評価・改善の循環)による継続的な改善が重要です。

訓練結果や災害対応の経験を踏まえて計画を見直し、改善を重ねることで、常に最新の状況に適応できます。

事業内容や拠点の変化、人事異動などに応じた更新が、機能するBCPの維持につながります。

企業のBCP実践事例

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ここでは、業種特有の課題に対応しながら、事業継続体制の強化を進める企業の取り組みを紹介します。

【製造業】サプライチェーンの可視化と迅速な代替対応

事例:トヨタ自動車株式会社

同社は、東日本大震災の教訓を踏まえ、サプライヤーと一体となった「災害に強いサプライチェーンの構築」を進めています。

サプライヤーからの機密性の高い情報共有を基に、サプライチェーン情報をデータベース化した「RESCUE(REinforce Supply Chain Under Emergency)システム」を構築。このシステムは、熊本地震や西日本豪雨などの際にも被害状況の把握や復旧対応に活用されました。

また、一般社団法人日本自動車工業会を通じて他社にも展開されており、業界全体の事業継続力向上にも寄与しています。

参考:Sustainability Data Book 2018(トヨタ自動車株式会社)

【小売業】全国拠点網を活かした早期復旧と地域支援

事例:株式会社ファーストリテイリング

ユニクロなどを展開する同社は、全国に広がる店舗ネットワークを活かし、災害時にも迅速な対応を行っています。

東日本大震災では、発生直後から被災地への衣料配布を行うとともに、仮設店舗の運営や一部店舗の再開を進め、地域支援と事業継続を両立しました。企画から製造・物流・販売まで一貫して自社で管理するSPA(Specialty store retailer of Private label Apparel:製造小売業)モデルも、状況に応じた柔軟な対応を可能にしています。

その上で、さらなる在庫管理・物流体制の強化を進め、災害時の事業継続力を高めています。

参考:国内・海外の災害支援活動(株式会社ファーストリテイリング)

まとめ

災害時に事業を止めないためのBCPは、企業の社会的責任であると同時に、経営の持続性を高める重要な戦略です。

本記事で紹介した5つのステップを段階的に進め、訓練・教育と改善のサイクルを継続することが、実際に「動くBCP」を実現する鍵を握ります。

ピースウィンズ・ジャパンは1996年の設立以来、国際人道支援や災害緊急支援などに取り組み、企業様との多様な連携実績を重ねてきました。災害現場で培った知見を活かし、企業向け研修を通じて組織の実効性向上も支援しています。企業連携の事例やお問い合わせについては、以下のページをご覧ください。

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