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2026年3月9日
コラム
コレクティブインパクトとは?社会課題解決に向けた協働のポイント
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貧困や格差の拡大、災害からの復興、地域インフラの維持など、複数の要因が絡み合う社会課題は、一つの組織だけでは解決が難しくなっています。こうした状況に対応するため、行政・企業・非営利団体などが共通の目標を掲げ、それぞれの強みを活かしながら協働する枠組みが「コレクティブインパクト」です。

本記事では、コレクティブインパクトの考え方や、企業が参画する際のポイントなどを解説します。

コレクティブインパクトとは

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コレクティブインパクトは、行政・企業・非営利団体などが「誰が何を担うか」「どんな状態を成果とするか」を共有しながら協働する考え方です。

ここでは、その基本的な特徴と従来の連携との違いを整理します。

複雑化する課題に挑む協働モデル

複数の領域にまたがる課題では、多面的な視点が不可欠です。一つの組織だけで状況を把握し方向性を決めることは難しく、複数の主体がそれぞれの知見や資源を補い合う必要があります。

コレクティブインパクトは、「共通目標の設定」「役割分担の明確化」「進捗の可視化」を重視する協働の仕組みとして体系化されました。

提唱の背景と広がり

コレクティブインパクトの考え方が生まれたのは、2011年に発表された論文がきっかけです。著者は、米国のコンサルティング組織FSG(Foundation Strategy Group)のジョン・カニア(John Kania)とマーク・クラマー(Mark Kramer)です。

彼らは、米国オハイオ州シンシナティで成果を上げていた協働の取り組みをケーススタディとして分析し、複数の組織が成果を上げるには5つの条件が必要だとまとめました。共通アジェンダの設定や測定システムの共有、相互補強的な活動などを挙げ、現在では協働を設計する際の基礎理論として世界中で参照されています。

従来型の連携との違い

コレクティブインパクトは、複数の主体の活動を「共通の目標」に集約し、進捗を共有しながら取り組む点に特徴があります。

従来型の連携とコレクティブインパクトの主な違いは、次の3点です。

・目標の共有
組織ごとに目的が異なるのではなく、全体で一つの共通目標を設定します。

・役割の調整
各組織が独立して活動するのではなく、重複を避け補完関係を設計します。

・成果の測定
それぞれが独自に評価するのではなく、共通の指標で進捗を把握します。

これにより、「誰が何をどこまで進めたか」が見えやすくなり、複数組織による協働を持続的に進められます。

コレクティブインパクト成功の5つの条件

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コレクティブインパクトを機能させるには、5つの条件が必要です。①共通アジェンダ、②共有された測定システム、③相互補強的な活動、④継続的なコミュニケーション、⑤バックボーン組織です。

このうち、協働の基盤として特に重要な3つを解説します。

共通アジェンダ

複数の主体が同じ方向に向かうためには、「何が問題なのか」「どうなれば解決といえるのか」を共通の認識として整理する必要があります。共通アジェンダは、協働の目的、取り組む範囲、想定する成果を明文化し、関係者が同じ理解を持つための基盤です。

立場や専門性が異なる主体が集まる協働では、課題の優先度や解決への道筋が異なることも少なくありません。この整理が不十分だと、全体としての効果が薄れてしまいます。合意した内容を適宜見直しながら進めることで、状況の変化にも柔軟に対応できます。

バックボーン組織

協働に関わる主体の役割が多岐にわたる場合、それぞれの活動を調整し、全体を見渡す役割が必要になります。バックボーン組織は、進捗の把握や情報の整理、会議の運営などを専門的に担い、取り組み全体が滞らないよう支えます。

特に、取り組みの規模が大きくなると、複数の主体が互いの状況を把握しづらくなります。各主体が本業を抱える中で、専門的に調整役を果たす組織の存在が重要です。バックボーン組織は、活動の記録や会議体の運営を通じて、協働の方向性を確認しやすい環境を整えます。

継続的なコミュニケーション

協働では、状況の変化や新しい情報を関係者が速やかに共有する仕組みが欠かせません。活動が並行して進む場面では、認識のずれが生じやすく、全体の進行にも影響が出ます。

定期的な打ち合わせやオンラインツールの活用によって、関係者間で状況を共有しやすくなります。また、継続的な対話を通じて相互の信頼関係が深まり、課題が生じた際にも柔軟に対応できます。小さな変化でも共有を続けることで、判断や調整をスムーズに進められる環境が生まれます。

コレクティブインパクトで生じやすい課題と対処法

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複数の主体が関わる協働では、共通の理想を掲げても、実践の過程で停滞することが少なくありません。

ここでは、特に陥りやすい2つの課題と、その対処法を解説します。

形骸化を防ぎ協働を深める工夫

協働の継続において、取り組みが形骸化してしまうことが1つ目の課題です。当初の合意内容が次第に曖昧になり、各主体が「とりあえず会議に出席する」といった状態に陥ることがあります。取り組みの目的や優先度が主体ごとにずれ、全体としての方向性が失われる状態です。

形骸化を防ぐには、「何のために協働しているのか」「どんな成果を目指すのか」を定期的に確認し合う場が重要です。たとえば、四半期ごとに共通アジェンダを振り返り、状況の変化に応じて目標を調整する機会を持つことで、協働の実質が保たれます。

可視化しづらい成果と評価の整え方

協働において、成果を可視化しづらいことが2つ目の課題です。「地域の信頼関係が深まった」「支援の質が向上した」といった質的な成果を扱う場面が多く、数値での評価が難しい場合があります。判断基準が主体ごとに異なると、認識もバラバラになり、改善の方向性が定まりません。

成果を捉えるには、支援件数などの活動量だけでなく、定性的な変化も指標に含めることが重要です。たとえば「会議での提案や相互助言の増加」「対象者の表情や発言の変化」などの要素を定期的に共有することで、数値では見えにくい進捗を把握できます。

コレクティブインパクトの国内外の代表的事例

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コレクティブインパクトは、さまざまな分野で実践されています。それぞれの取り組みでは、参画する企業が自社の強みを活かしながら、他の主体と協働して成果を生み出しています。

ここでは、代表的な事例を紹介します。

海外の代表的事例

【米国:「ストライブ・トゥギャザー(StriveTogether)」】

米国オハイオ州シンシナティで2006年に始まった取り組みは、後にコレクティブインパクトの概念が生まれるきっかけとなった代表例として知られています。「ゆりかごから就職まで」をビジョンに掲げ、学校、行政、経済界、非営利団体などが協働し、地域の子どもたちの教育環境を改善する仕組みを構築しました。就学準備度、高校卒業率、就業率といった指標を設定し、データに基づいて活動を改善しています。

この取り組みは「ストライブ・トゥギャザー(StriveTogether)」として体系化され、現在は全米約70の地域に広がり、1,400万人以上の子どもたちを支援するネットワークへと発展しています。

参考:StriveTogether

国内の代表的事例

【東京都文京区:「文京区こども宅食」】

東京都文京区で、2017年に全国に先駆けて「文京区こども宅食」が始まりました。文京区、ココネット株式会社、子ども支援のNPO法人など行政・企業・非営利団体が協働しています。経済的に厳しい家庭に定期的に食品や日用品を届けており、2024年度には年間延べ5,510世帯を支援しました。

配送を通じて家庭の状況を把握し、必要な支援につなげるアウトリーチ型支援として運営され、LINEでの相談受付も行っているのが特徴です。

こども宅食の取り組みは、全国各地にも広がっています。

参考:文京区こども宅食

【宮城県石巻市:「コミュニティ・カーシェアリング」】

東日本大震災を機に設立された一般社団法人日本カーシェアリング協会は、仮設住宅や災害公営住宅で移動手段を確保するために事業を開始しました。行政のほか、三菱自動車工業株式会社、日本ミシュランタイヤ株式会社、株式会社NTTデータなど多様な企業が参加しています。さらに、支援団体や大学も協働し、電気自動車などを活用した地域のモビリティ向上に取り組んでいます。

移動手段の提供にとどまらず、車の利用を通じた住民交流の促進や、電気自動車を非常用電源として活用する防災の取り組みなども進めています。

「コミュニティ・カーシェアリング」は全国に広がり、交通弱者支援と地域活性化を両立させる新しいモデルとなっています。

参考:コミュニティ・カーシェアリング(一般社団法人日本カーシェアリング協会)「新しい東北」事例集(復興庁)

企業がコレクティブインパクトに参画するメリット

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コレクティブインパクトへの参画は、企業にとって社会貢献だけでなく、事業や組織の成長にもつながります。

単独では生み出せない社会的成果

企業が単独でCSR(企業の社会的責任)活動を行う場合は、支援の対象や範囲が限定されがちです。一方、行政や非営利団体と協働すると、企業の技術や物流網が他の主体の強みと組み合わさり、支援の幅が大きく広がります。

複数の主体が共通の指標で成果を測定するため、「自社の活動がどう社会変化につながったか」が明確になり、ステークホルダーへの説明もしやすくなります。

ESG評価と企業価値の向上

気候変動や人権問題への関心の高まりを背景に、企業のESG(環境・社会・企業統治への配慮)の取り組みを重視する傾向が強まっています。コレクティブインパクトへの参画は、社会課題に本気で向き合っているというメッセージを発信する有効な手段です。CSRやESGなどについては以下もご参照ください。

企業の社会貢献はなぜ必要なのか? ESG・CSR・SDGsの違いと経営に効く理由

ただし、重要なのは活動の中身です。共通アジェンダの設定、共有された測定システムによる成果の可視化、継続的な情報開示など、コレクティブインパクトに必要なプロセスが整っていれば、活動の透明性が高まり、投資家からの評価につながります。

社員の成長と組織力の向上

協働の現場では、企業の社員が行政職員や非営利団体のスタッフと対等な立場で課題解決に取り組みます。この経験は、日常業務では得られない視点をもたらします。

現場での対話を通じて社員の当事者意識が高まり、組織全体の社会課題への感度が向上します。こうした経験を社内で共有する仕組みを整えれば、組織全体の学びにもつながります。

コレクティブインパクトに企業が参画するステップ

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コレクティブインパクトへの参画には、自社の強みと社会課題の接点を見極め、適切な協働先を見つける準備が必要です。

ここでは、実践的な進め方を解説します。

ステップ1:自社の強みと社会課題の接点の検討

協働を始める前に、自社がどの社会課題に取り組むべきかを明確にする必要があります。重視すべきは、自社の事業や強みと課題の関連性です。

物流業であれば過疎地域の配送課題、食品メーカーであれば食品ロスや子どもの栄養課題、IT企業であれば地域のデジタル格差など、自社の事業領域と社会課題の接点を探します。経営理念や創業の背景に立ち返ることで、自社が本質的に向き合うべき課題が見えてくる場合もあります。

その際に欠かせないのは、実働部門と経営層を含む関連部署との目的共有です。社内で目指す方向性が一致しているほど、外部との協働に必要な意思決定がスムーズに進みます。

ステップ2:適切な協働先の見極め

協働先を選ぶ際は、相手先の活動実績、専門性、透明性といった観点が重要です。

まず、対象とする社会課題に長期的に取り組んできた実績があるかを確認します。現場での経験が豊富な団体ほど、課題の本質を理解しており、協働がスムーズに進みやすいためです。次に、その団体が持つ専門性が自社の強みと補完関係にあるかを見極めます。最後に、活動内容や財務情報を公開しているかなど、透明性の高さも重要な判断基準です。

協働先の候補としては、行政機関や中間支援組織を含む非営利団体などが挙げられます。複数の候補を比較検討し、自社の目的に最も適した協働先を選ぶことが大切です。

災害支援や地域創生事業などに取り組む認定NPO法人ピースウィンズ・ジャパンは、多様な企業との協働を重ね、柔軟な連携体制を整えています。詳細は以下をご覧ください。

ピースウィンズ・ジャパンの企業連携事例や概要はこちら

ステップ3:役割分担と成果指標の事前合意

協働先が決まったら、「誰が何を担うか」「どんな状態を成果とするか」を明確にすることが不可欠です。

企業が提供できる資源には、資金、物資、専門人材、物流網、広報力などがあります。一方、行政や非営利団体は、現場の課題把握、受益者との関係構築、制度設計などの強みを持っています。これらを組み合わせることで、単独では生み出せない成果が期待できるでしょう。

同時に、具体的な成果指標を設定します。指標は、支援世帯数や満足度といった定量的なものと、対象者の行動変化や関係者の手応えといった定性的なものを組み合わせると、多面的に成果を捉えられます。

ステップ4:進捗の共有と継続的な改善

協働が始まったら、定期的に進捗を確認し、必要に応じて計画を見直す仕組みが重要です。

たとえば四半期ごとなどに関係者が集まり、設定した指標の達成状況を確認します。数値データだけでなく、「現場で起きた課題や気づき」「想定外の出来事」などを共有することで、次の施策が見えてくるでしょう。特に、初期段階では計画通りに進まないことも多いため、柔軟に調整する姿勢が求められます。

また、協働の過程や成果を社内外に発信することも重要です。社内報やウェブサイト、統合報告書などで活動を紹介すれば、社員の参加意欲が高まり、外部からの評価にもつながります。

まとめ

コレクティブインパクトは、行政、企業、非営利団体それぞれの強みを掛け合わせることで、社会に大きな変化をもたらすアプローチです。成功の鍵は、共通アジェンダの設定、役割分担の明確化、継続的なコミュニケーションといった点にあります。

企業がこの取り組みに参画する際は、自社の強みと社会課題の接点を見極め、適切な協働先を選び、成果を可視化する仕組みを整えることなどが重要です。

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