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【ウクライナ】戦争の長期化で必要性が増す心のケアと法的支援

ロシアによる侵攻から1年が過ぎ、戦争の長期化が避けられない状況となる中、関係するすべての人々の心のケアがより一層重要な課題となりつつあります。ウクライナの調査会社Gradusによると、ウクライナ人の7割がストレスと不安を感じているといいます。昨年暮れ、ゼレンスキー大統領夫人のオレーナ・ゼレンシカさんは心のケアが急務だとして「精神衛生と心理サポートのための国家プログラム」を立ち上げたとスピーチで語りました。
 
こうしたなか、ピースウィンズ・ジャパンでは、ウクライナのNGO「Right to Protection(R2P=「保護の権利」という意味)」とパートナーシップを組み、リヴィウ、ヴィニッツァ、チェルノフツィの3つの州を中心に、ウクライナにとどまる国内避難民と彼らを受け入れるホスト地域の人々の心のケアに取り組んでいます。
 
●R2Pのモバイルチーム
 
2001年から人道支援団体として活動してきたR2Pは、2003年からUNHCRとも提携するウクライナを代表するNGOのひとつです。その特徴は法律家と心理学の専門家らで構成され、機動的に動くモバイルチーム。法律と心理学の専門家に加えて、コーディネーターとドライバーがチームを組んで、毎日、避難所や知人宅などに身を寄せる国内避難民の元を訪ねてまわり、心の負担になっていることはないか? ストレスを抱えていても相談相手がいなくて困っていないか? といったことを探っていきます。人々が集まるコミュニティセンターのようなところに事前のお知らせをして集まってもらうこともあります。3月下旬からは、食料や衛生用品などの支援物資の配布と合わせて、こうした訪問が続けられます。
 
ウクライナではソ連時代の名残りから、カウンセリングを受けるのは「弱い人」というイメージが残っており、辛いことがあっても外部に助けを求めることには心理的抵抗感があるそうです。このため、R2Pでは支援物資の提供をきっかけに会話の糸口を見つけ、心のケアを必要としている人を見つけ出します。同じような境遇の人と体験を語り合うことで共感できることもあるので、参加しやすい10人から20人程度が参加するグループセッションの場を用意することもあれば、必要な人には個別カウンセリングを行なうなど、状況に応じて対応しています。
 


教会を訪れたモバイルチーム

 


 

 
チームには法律家がいるので無料で法律相談を受けることもできます。そこでの対話からも、心のケアが必要な人を見つけ出すことができます。
 
ウクライナでは2014年にクリミア半島がロシアに占拠された頃から、国内東部から中部へと避難する国内避難民がいました。2022年2月の新たなロシア侵攻でさらに東部や南部から国内の他の地域に避難した人が多く、東部と西部では言葉や文化が異なるために戸惑う人も少なくありませんでした。R2Pがこれまでに受けた相談には、こうした言葉や生活習慣にまつわるもの、あるいは、避難生活が長引く中で、仕事を探したり、少しでも環境の良い地域や安いアパートに移りたいといったものもあります。避難生活が続く中での不安からうつ状態になったり、恐ろしい体験がフラッシュバックする、眠れない、悪夢にうなされるといった不調を訴える人もいます。
※国内避難をした方のインタビューはこちらから:
https://global.peace-winds.org/activity/ukraine/45872
https://global.peace-winds.org/activity/ukraine/45879
 
子どもと共に避難生活を送る人々からは、「子どもが問題行動を起こすようになった」「仲の良かった兄弟姉妹なのに、ストレスのせいか喧嘩が増えて親の疲労が溜まってきた」といった相談が寄せられることも少なくありません。また、高齢者の中には、体力的に長距離の移動ができない、愛着のある土地を離れたくない、あるいは見知らぬ土地で生活を新たに築くことの経済的不安が大きいといった理由から、戦闘地域を離れることをためらう人がいます。このため、やむなく戦闘地域に親や祖父母を残してきた人が家族の身を案じたり、孫を見せてやることができない心苦しさを語ることもあります。このような問題は一度のカウンセリングで解決するものではないため、継続的な支援が必要です。
 


 

子どもたちは言葉にできない思いを絵に託すことがある

 
●見えにくい避難所の「外」にいる人々
 
国内で避難生活を続ける人の中には、避難所ではなくアパートを借りたり、親族の家に身を寄せている人が少なくありません。避難所に地元自治体やさまざまな支援団体からの物資や支援が届くのに対し、避難所の外にいる人々には届きにくく、とても困っているという実情があります。R2Pのモバイルチームが機動的に避難所の外にいる人々を訪ねるのは、こうした見えにくい避難民に手を差し伸べるためです。
 
●受け入れるコミュニティの側に心理的負担も
 
心のケアを必要としているのは避難民だけでなく、ホスト地域の人々にもさまざまな苦労があります。直接的な爆撃を受けていなくても、家族や親戚など身近な大切な人を東部戦線で亡くしている人は多く、その悲嘆がある上に、新たに避難民を受け入れなければならない状況を受け止めきれないと感じる人が少なくありません。戦闘が長期化すれば、避難民を受け入れている側の戸惑いや心理的負担はさらに大きくなっていくことが予想されます。ピースウィンズはR2Pと協力しながら、こうした受け入れコミュニティの心のケアを今後も続けていきます。
 
[R2Pとは]
ウクライナを代表する人道支援団体のひとつで、国内避難民、難民、無国籍の人々の権利擁護のために活動してきました。ウクライナに暮らすすべての人々の安全と尊厳を守ることを目標にしています。戦争開始直後の昨年2月末に食料と衛生用品の配布を開始し、3月には車椅子などの器具の配布を始め、並行して心理社会的支援と法律支援を継続して行なってきました。
 

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