ピースウィンズ・ジャパンは、紛争や災害などの脅威にさらされている人びとに対して国内外問わず支援活動を行うNGOです。

2012.7.6

【3回連続ルポ】小さな命の危機 原発被災犬の保護事業(3/3)

日本

ピースウィンズ・ジャパン(PWJ)は、被災者ならびに被災犬の生活の回復に向けた対策をパートナー団体・NPO法人ジャパンドッグスタンダード (JDS)を通じて実施しています。
3回連続ルポとして、パートナー団体JDS理事長 岸さんによる活動の進捗状況を報告しています。
▼過去のレポートはこちらから
【3回連続ルポ】小さな命の危機 原発被災犬の保護事業(1/3)
【3回連続ルポ】小さな命の危機 原発被災犬の保護事業(2/3)

100頭以上の犬たちがドッグビオに

そして計画的避難が始まりました。私たちの予想は悪い形で的中しました。
岐阜のシェルター、また別途福島県で設置したシェルターも収容数を完全にオーバーフローしました。
入所を断られた犬たちの保護依頼が次々とドッグビオに寄せられました。同時に飯舘村より村役場窓口で犬の保護に際しての相談があった場合に当施設の紹介をすることにしていただいたこともあり、さらに頭数は増加しました。現在まで、のべ100頭以上の犬達の保護・管理を行なってきました。そのような中、預り犬は元々屋外飼育の犬が多く、あまり体のコンディションの良くない犬も多くいました。しかしながら収容当初の協力獣医師による健康チェックにより、疾病やケガの発見・治療、犬フィラリア症の予防並びに感染の確認、獣医師の指導の元で治療を実施しました。また、狂犬病や各種伝染病予防ワクチン接種の徹底、ノミダニの駆除薬の定期的投与、入所時及びその後約2週間毎のシャンプー実施といった衛生管理の徹底を行なったこともあり、幸いにも収容犬が生命に関わるような重篤な疾病や怪我等をすることなく現在に至っています。
今までにドッグビオには生活を回復して愛犬を引き取るために多数の飼い主やその関係者の方が来場しました。皆様から感謝の意を伝えられるたびに「一部は私たちの力でなんとかなってきたが、ほとんどの部分は我々の力ではない。これも活動に必要な資金を提供していただいた方々や、獣医師をはじめとした協力者の方々のご助力の賜物だ」と感じています。多くの支援者のみなさまに、この場を借りて深く感謝の意を表したいです。彼らの存在がなければドッグビオの存続はありませんでした。

犬にとってのQOL

犬という生き物は本来、運命的に出会った飼い主の下で天命を全うするのが一番の幸せだと私たちは考えていますが、そんな私たちですらドッグビオでの犬たちの一日はひょっとすると自宅にいるより充実しているのではないか?と思ってしまうくらい楽しそうにしている瞬間を垣間見ます。朝晩各30分以上の散歩、犬同士の遊び時間、清掃・消毒の行き届いた暖かく涼しい犬舎、個別に与えられた就寝スペース、定期的に行われる獣医師の回診、そして常に在舎する犬たちに目を配るスタッフとのコミュニケーションの時間。犬たちは弾むように生き生きした動きで遊びに興じたり、スタッフを相手に首をかしげながらオヤツをねだったりしています。時には大あくびをし、時には唸り声を上げながら、他の犬に「オイラのおもちゃ、とるなよ!!」とアピールしています。協賛企業よりご提供いただいた朝晩のご飯を食べる時間は何よりの楽しみのようです。時間が近くなると「お腹すいたよ~」と言わんばかりにクンクン鼻を鳴らします。
手前味噌ですが、東日本大震災において被災した犬を収容する施設のみならず、保護施設は全国に数々ありますが、ここまで犬にとってのQOLが高い施設はまれだと自負しており、それゆえにここの環境やシステムが全国の「犬の保護施設」のスタンダートたるべきだと考えています。客観的に考えて、ここにいる犬たちは「不幸の中にある幸運な犬」と表現できるかもしれません。一部の例外(ネグレクト等の飼育放棄や衛生管理の行き届かない飼い犬等)を除く「一般の家庭犬」にとって当たり前の環境が、様々な理由によって保護された犬にとっては当たり前でないというのが日本の動物愛護システムの現状です。

犬との共生に向けたチャレンジ

設置当初の「避難する際に連れてゆけない。元の自宅に帰ったあかつきには引き取りたい」というニーズに対して、ドッグビオの初期の役割は犬たちを預り、保護・管理することでした。そしてその目的は達成されつつあります。前述のとおり、大きな事故や疾病もなく発災より1年以上が経過しているというのがその結果です。そして現在、ドッグビオは新たな局面を迎えようとしています。今ドッグビオに残っている犬、並びに任意団体や関係各位に管理を委託している犬の多くの飼い主が、愛犬を引き取って共に暮らすことを放棄せざるを得ない状況に置かれているかです。犬達の寿命は10数年です。保護権の中には既に10歳以上に達している犬もいます。いくらドッグビオの環境が良いからといって、既に被災より1年以上が経ちます。ここで天寿を全うするというのは、あまりにもしのびないと考えます。犬を深く理解しているという自負を持つ私たちにとって、犬という生き物は「人と共生」して、人の記憶や記録に残って、はじめて「イヌ」から「犬」になると思うのです。であれば、その犬たちに残された時間の中で、たとえ僅かであっても「愛情あふれる、暖かな人との共生の時間」を持たせてあげたい。ドッグビオの使命が保護管理から新しい家庭を発見することに変化してきているのではないかと考えています。具体的には首都圏、特に人口が多く、潜在的に「犬を新たに飼いたい」という人々に行き当る機会が多いと思われる地域にドッグビオを移設し、「出会いの場の提供並びに里親探し」に活動の軸足を移しています。このシステムがうまく構築できれば、最終的には被災犬のみならず、様々な理由によって行きどころをなくし、殺処分という悲惨な結末を迎えている犬達を、少なからず助けることが出来る機能を持たせることができるのではないか、また将来においてあまり想像したくはないが、必ずやってくるであろう大きな災害時に、機能的に活動のできる動物救護のプロを育成することができるのではないかと感じます。
ドッグビオの「犬との共生」への挑戦はまだまだ続いていきます。

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ドッグビオ那須高原で、里親を募集している犬たち

写真上:サチちゃん、写真下:ラッキーちゃん

岸 良一

幼少期の数年をヨーロッパで過ごし、しつけの行き届いた犬たちと触れあった経験から、動物愛護の先進国であるイギリスより英国式訓練を導入。
1999年に自らのスクールである「ドッグライフプランナーズ」を設立。以来、のべ10,000組以上の犬とオーナーたちの指導を手がけ「優れた状況、情報分析力を駆使したトレーニング」としてTVをはじめ、多くのマスメディアにおいて高い評価を受けている。
「現場至上主義」を掲げ、現在も自らの手で一頭一頭、ハンズオン形式での家庭犬トレーニングを行う一方、今後の日本の家庭犬との楽しい生活をサポートするスペシャリストである「ドッグライフプランナー」の職業としての地位を確立すべく「ドッグライフプランナー協会」を設立。協会会長として会員ならびに後進の指導に当たるなど活動は多岐にわたる。

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