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【イラク事業地訪問ルポ】イラク北部のシリア難民キャンプでの住まいの改善事業 (2019年2月24-27日)

シリア紛争は8年目を迎え、紛争は終結に向かいつつあるものの、故郷への帰還や復興への道のりは長い。イラクに逃れている約25万人のシリア難民の避難生活が長期化するなかで、テント暮らしを強いるのではなく、より良質な住環境で暮らせるように、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は2015年からシリア難民キャンプからテントをなくすことを目標に掲げ、住まいの改善を推進しています。ピースウィンズは、皆さまからのご寄付や米国国務省人口・難民・移住局(PRM)から助成を受け、イラク北部のクルド人自治区にあるすべての難民キャンプで、シリア難民家庭に対して、丈夫な住まいを提供する事業に取り組んでいます。
この活動の現地視察を行ったピースウィンズの本部スタッフからの報告です。
 
2018年8月、僕にとって初めてのイラク訪問。クルド人自治地域アルビル州にあるシリア難民キャンプで暮らす人々の生活を間近で見る機会を得た。道端で遊ぶ子どもたち、お客さんで賑わっているお店。僕たち一行に向かって手を振ってくれるシリア難民たち。人々の生活は生き生きしていたが、彼らが暮らす住まいはお世辞にも良いものとは言えなかった。

キャンプで難民たちが暮らしていたテント
キャンプで難民たちが暮らしていたテント

いくつものシリア人家族は簡素なテントで暮らしていた。うっすら残っている“UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)”の文字から、イラク北部では年間を通して氷点下~40度以上と気温差があり、強風・雨・雪と厳しい天気に見舞われる気候であること、そしてそこでの生活の過酷さが伺われる。テントは6ヵ月に一度は張替えを行っているようだが、シリアへの帰還が難しいなか、今後数年は避難生活を送ることが予想され、テントに代わる頑丈な住まいが必須であることは言うまでもない。
 
ピースウィンズはイラクで、緊急人道支援の様々な分野で活動を展開してきているが、シェルター(住まい)はとりわけ得意とする活動であり、アルビル州で住まいの改善をリードする立場にある。2018年9月からは、同州にある4つ全てのシリア難民キャンプに残っているテントの住まいや、テントを自己流に修繕したものの不十分である住まいを対象に、改善事業を行っている。今回、その進捗を自分の目で確かめに行く機会をやっと手にした。
 
最初に訪問したダラシャクラン難民キャンプでは、120棟の住まいを改善して今年8月までに難民家族に提供予定だ。キャンプ内に設置したピースウィンズのフィールド事務所では、シニア・エンジニアのジャシームが作業工程の詳細プランを見せてくれた。事務所の壁一面に貼られたスケジュール表や地図、裨益者情報を見る限り、綿密に組まれた事業計画。実際のところどうなのだろうか。

建設スケジュールを説明するシニア・エンジニアのジャシーム(左から2人目)
建設スケジュールを説明するシニア・エンジニアのジャシーム(左から2人目)

その後、ジャシームが改善作業中の住まいをいくつか案内してくれた。忙しさで活気に満ち溢れた現場 – 黙々と働く難民の作業員たち、トラックで運び込まれてくる建設資材、現場を指揮し作業員に賃金を渡すピースウィンズの現地スタッフたち。

運搬されてきたコンクリートブロック。これら資材を使ってテントから丈夫な住まいに改善する。
運搬されてきたコンクリートブロック。これら資材を使ってテントから丈夫な住まいに改善する。
ピースウィンズの現地スタッフから賃金を受け取る作業員(右)。キャンプに住む難民を雇って所得創出の機会を作っている。
ピースウィンズの現地スタッフから賃金を受け取る作業員(右)。キャンプに住む難民を雇って所得創出の機会を作っている。

ここで僕は、この事業の要となる3つの活動が予定通りスムーズに行われていることを確認した。その3つとは住まいを改善するための資材の受け取り、改善工事そして工事に従事する作業員への賃金の支払いだ。難民に対して短期雇用の機会を提供するキャッシュ・フォー・ワークを住まいの改善事業に取り入れているが、実を言うと僕は上手くいくかどうか心配していた。複数の住まいを同時に改善するなかで、現金での作業員への支払いを日々こなす必要があり、お金の流れを確実に把握するのは難しいのではないか。しかし、そんな心配も現地スタッフの働きぶりを見て払拭された。担当スタッフが、作業員の業務成果を確認後、身分証明書をチェックし賃金支払いを実行、最後に支払い受領署名を一人一人からしっかり受け取る流れを見ることができた。
 
キャンプ内を歩いていると、ある一人の難民男性が僕たちをお茶に招いてくれた。彼の区画で改善する住まいの工事準備をちょうど終えたらしく、そこにイスを並べ、話を聞かせてくれた。どのようなシェルターが建設されるのだろうと周りを見渡しながら、家主の男性に、考えているデザインについて聞いてみた。家主が話し出した途端、ピースウィンズのエンジニアが色々と質問し始めた。アラビア語で熱く意見交換される内容が僕には全く分からなかったが、最後にエンジニアたちが「オーケー」と言い家主がにっこり笑った。どうやら、彼のアイディアはピースウィンズのエンジニアチームのお墨付きをもらったらしい。住まいを改善するための予算は各家庭等しく設定されており、その範囲内で可能な限り、また技術的に問題がないことを確認したうえで、実際に住む難民家族が快適な生活ができるよう、窓やドアの位置、レイアウトなどを考慮して決定する。エンジニアたちは、難民たちとコミュニケーションを取るなかで、技術面だけでなく、予算や工事の必要日数なども考えて判断するという、重要な役割を担っている。家主にお茶のお礼を伝え、僕たちは他のスタッフとの合流先に向かった。
 
その日の午後、アルビル州で一番大きいシリア難民キャンプであるカワルゴスク難民キャンプを訪問した。ここでは、348棟の住まいの改善を行う。カワルゴスク難民キャンプではUNHCRの事業担当者と難民キャンプ・マネージャーとともに、キャンプの生活環境、周辺地域の治安、難民キャンプが直面している課題など色々な話をすることができた。住まいの改善は、難民の間でも最も必要とされている支援らしい。もちろん、安全な飲料水や衛生環境へのアクセス、教育や医療も大切な事業だ。しかし、住まいの改善は、難民家庭がアットホームに感じられる「家族の空間」を手にし、目に見える形となって成果がすぐに表れる。難民やキャンプ関係者からは、この事業を歓迎する、ピースウィンズとこの活動の支援者や助成者が、我々が何を必要としているかをくみ取ってくれて感謝している、という声を聞くことができた。
 
翌日、10棟の住まいを改善予定のバシルマ難民キャンプを訪問し、そのうちの1棟の建設現場に立ち寄った。屋根のフレーム部分を取り付ける家主と作業員たちを嬉しそうに見つめる難民家族の様子が印象的だった。お母さんが、一緒に写真を撮ってくれと赤ちゃんを僕に預けようとした。抱っこしようとしゃがみこんだ僕の顔を見るなり泣き出す赤ちゃん。笑いに包まれるなか、お母さんが赤ちゃんを無事救出、結局僕一人の写真だけを撮ることに。今度はお母さんも一緒に写真を撮っていいか聞いてみたが、にっこりお断りされてしまった。

テントを取り除き、コンクリートブロックで家の壁が完成した後、 屋根のフレーム部分を設置中。
setting roof frame 2_original

テントを取り除き、コンクリートブロックで家の壁が完成した後、
屋根のフレーム部分を設置中

その後すぐ、この活動を助成しているアルビル駐在のPRM担当者が事業進捗の確認のためキャンプを訪問したので、改善工事の進捗と作業工程を説明した。彼女が、例の赤ちゃんのお母さんにこの住まいの改善活動について聞いたところ、「とても満足している」という答えを聞くことができた。

アルビル駐在のPRM担当者と家主の家族。
アルビル駐在のPRM担当者と家主の家族。

彼女同様、僕も事業の進捗具合にはとても励まされた。フィールド事務所では、しっかりと事業管理が行われており、工事現場ではスタッフが効率よく責務をこなし難民たちと一緒に活動していた。そして、事業関係者や難民から僕たちの事業が好評を得ていることが一番の収穫だった。今回の訪問では、この活動に対する前向きな意見や感想を得ることができ、その理由を確認できた:
 
1.事業に対するオーナーシップ ―この住まいの改善事業では、家主である難民自らが責任を持って作業や工事を進めることになっている。腕のいい作業員を雇うのも、デザインに工夫を加えるのも彼ら次第だ。作業工程を通して彼らをガイドするのがピースウィンズ・スタッフチームの役割だ。難民を中心にした作業工程こそ、家主とその家族のオーナーシップ(自分たちが実施する活動であるという意識と行動)を高め、責任感を持ってこの事業に取り組んでもらう秘訣となっている。
 
2.生計支援 ―キャッシュ・フォー・ワークはキャンプ内で難民に対して短期雇用を創出する機会となっている。決められた作業終了と同時に即時に賃金を受け取ることができる仕組みだ。
 
何より、この事業は住まいを改善するだけではなく、僕たちみんなが権利として与えられている尊厳を取り戻す一助となっている。自分の生活に対して選択肢を持つことは、胸を張り人生を歩むことにつながるのではないか。この事業は、シリア難民たちが自分たちの生活に主導権を取り戻す支援をしているとも言えるのではないか。自ら住まいの改善に関わり、コンクリートブロックを一つ、また一つ重ねるごとに、難民とその家族たちが少しでも希望のある将来を築いていくことが出来ればと切に願う。
 
※本事業は、皆さまからの温かいご支援と、米国国務省人口・難民・移住局(PRM)から助成を受けて実施しています。
 
ピースウィンズ・ジャパンのイラクでの活動に、皆さまからの温かなご支援・ご協力をお願い申し上げます。
 
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