特定非営利活動法人
ピースウィンズ ・ジャパン
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問われるNGOの役割

戦争の世紀といわれた20世紀を抜け、私たちは「21世紀こそ平和と安定の世紀に」と願ったはずでした。しかしその願いは残念ながら、現在のところ実現されていません。それどころか、世界を覆うテロの脅威や各地でくすぶる紛争の火種が、世界に暗い影を投げかけています。不安要素は紛争だけではありません。依然広がる貧富の差も、国際社会に問題を突きつけています。そしてこのような状況のなかで、生きていくための最低限の保障さえない人々がいます。こうした人々に対して、私たちに何が
できるのか。混沌とした世界情勢を前に、私たちの活動はどのような意味を持つのか。2003年は、改めて人道支援、そしてNGOの力量が問われる一年となりました。


なぜ、PWJはイラクにとどまり続けるのか


2003年、イラクは戦争という最悪の事態を経て、世界中の人々が見守るなか、復興への道を歩みだしました。しかしその後、現地の情勢は悪化の一途をたどり、不透明さを増しています。復興に向け、各地でさまざまな活動を続けていた人道支援機関にも被害は拡大。撤退や活動の縮小をせざるを得ないほどに深刻な事態に陥りました。

ピースウィンズ ・ジャパン(PWJ)のイラクでの活動は、1996年の設立時まで遡ります。最初の支援地はイラク北部クルド人自治区。フセイン政権下の政治的制約によって活動が制限されるなか、国際社会による経済制裁とフセイン政権による抑圧の、いわば二重苦にあったクルドの人々を支えてきました。そして2003年のイラク戦争中は、既に行っている活動を中断させることなく、また戦争による新たな緊急事態に対応するため、現場にとどまりました。フセイン政権の崩壊直後には、いち早くクルド人自治区以外の地域にも活動範囲を拡大。無政府状態のなか、荒廃した病院の整備を行うなど、一貫してイラクでの支援を続けてきました。

PWJがイラクで支援を続けるのは、危機的状況においてこそ支援が必要とされるからです。紛争で着の身着のまま家を追われた人々への生活支援や負傷者の手当て、機能麻痺に陥った病院の復旧など、急を要するさまざまな課題。こうした課題に迅速・柔軟に応えることができなければ、被害はさらに拡大します。被害が拡大すれば、それだけ、地域の復興やそこで暮らす人々の生活の再建も困難になります。PWJが各地での治安悪化や緊急事態においても活動を休止せず臨んできたのは、そうした状況での被害を可能な限り小さくし、そしてできるだけ早く危機を脱するための一助となりたいと考えているからです。




迅速、柔軟、効果的な支援の追求


PWJの活動は現場に立脚しています。私たちは現場のニーズをきめ細かく把握し、支援内容を決定。それを迅速に実行しながら、状況の変化には柔軟に対応します。そして事業の実施にあたっては、現地の人々を雇用。このことは、効果的な支援を実現する
だけでなく、人々に希望を与え、復興への気運を高めます。最小限の国際スタッフと地元の事情に精通した現地スタッフとの連携によってPWJは、活動を円滑に進めること、支援地での信頼構築を図ること、そして高い費用対効果を発揮することを目指しています。特に緊急事態においては、NGOだからこその迅速、柔軟な対応が重要です。そしてNGOとして日本の市民からの支援金で活動している以上、できる限り効率的、効果的な活動を行うことは必須です。私たちはこうした要求に応えるべく、時間と資金、人材をできる限り有効活用し、効果的な支援を追求しています。


国家の枠を超えた取り組み


何よりも、NGOの「非政府」という特性が、ときに多くの制約をもたらす国家の枠組みを超えて、困難な状況に直面する人々に
手を差し延べる手段を担保します。イラクのフセイン政権下でクルドの人々の生活を支え続けたのは、主にNGOでした。イラク
だけでなく、東ティモールが混乱に陥った1999年、NGOはインドネシア政府との外交関係にとらわれることなく、いち早く支援を展開。政治から独立していることは、活動の幅を広げます。またそれは、多分に政治的な要素をはらむ紛争地域において、住民の信頼を得ながら活動を円滑に進めるうえでは不可欠な要素です。こうした点からも、PWJは、紛争地域での人道支援においてはNGOが重要な役割を担っていると考えています。




紛争地域にとどまる心構え

紛争地域でのNGOの役割に期待が寄せられる一方で、疑問も呈されています。治安の確保が困難な紛争地域で、NGOはどこまで支援を続けることができるのか――これは、私たちが常日ごろ直面し、自問している問題です。PWJの「現場にとどまる決意」は決して安直なものでも一時的なものでもありません。私たちは、できる限りの情報を収集し、危険の度合いと支援の必要性、そしてその予想効果を緻密に計りながら、日々、判断を行っています。疑問に応えるためにPWJにできるのは、人道支援に
おける専門性を磨き、安全対策に万全を尽くしながら、真摯に活動を続けていくこと。そして、現場からの情報発信を通じて、社会での理解と支援を求めてくことだと考えています。


危機対処を超えて

紛争や災害から一時的に身を守ることができたとしても、人々の生活再建と自立までには多大な労力を要します。最終的な目標は、現地の人々が自立して生活し、そのなかで発生するさまざまな問題に自分たちで対応できるようになること。最後にはPWJが必要なくなることが理想です。

2003年度も、PWJは各地で自立のための支援を行いました。自立への支援は、地道な取り組みが中心。決して目立つものではありません。とは言え、支援の遅れや中断は許されません。自立への道は一方通行ではなく、その歩みが止まったとき、人々の失望は新たな不安定要素となって別の危機を生み出します。危機を繰り返さないためにも、そして危機によって再び緊急支援が必要となる状態を防ぐためにも、継続した取り組みが重要。PWJは全ての活動地域において、生命をも左右する危機的状況から人々が自立へ向かうまで、切れ目なく、その時どきのニーズに対応した支援を続けてきました。私たちは、人々がしだいに自立への足がかりをつかんで行くのを見守りながら、これからも必要に応じて手を差し延べていきたいと考えています。

また、紛争や災害、貧困などによって困難な状況に陥った人々を事後的に救済するばかりがNGOの役割でもありません。支援活動が地域の緊張や閉塞感を緩和し、安定化を働きかける場合もあると、PWJは考えています。たとえばイラクでは、戦争が終結した後も避難生活を余儀なくされている人が
大勢います。都市部では失業率が50%を超え、公共施設は長年の経済制裁で荒廃したまま。社会の不安定化を招きかねない要因が数多くあります。こうした状況における生活改善や、活動を通じた雇用の創出は、現状に悲嘆する人々に新たな将来を提示します。このように、希望をつなぐことで地域の安定化をもたらすことも、NGOによる支援活動の役割のひとつ。またそれは、PWJの切なる願いでもあります。

いま、必要な人々の関心と支援


NGOの活動を支えているのは、危機的状況にある人々に対する国際社会の関心と、精神的、経済的な支援です。しかし、ひとつひとつの危機は波のように押し寄せる日々のニュースのなかですぐに忘れられ、継続的な関心を喚起し続けることは容易ではありません。かつてアフガニスタンの危機によって東ティモールの人々が忘れられ、そしてイラクの危機によってアフガニスタンの人々が忘れられつつある
ように。こうした危機に対する支援の必要性を語り続けることも、現地で活動するNGOの責務です。そのためにPWJはこれからも情報を発信し、支援を呼びかけます。そして自らを磨き、他の機関や団体、個人、社会のさまざまな構成員とともに、活動を続けていきます。それが、混沌とした世界情勢において困窮する人々の自立を促し、社会の安定につながると、私たちは信じています。

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